景色の特別な場所は、その存在が価値を生み出します。とりわけ飲食店は食べ物や飲み物を楽しむだけでなく、その場の時間や集う人たちとともにする時間、時とともに景色を楽しむ瞬間、全てが訪れる人にとっての特別な時間となります。今回ご紹介するのは、広島県の宮島にある牡蠣専門レストラン兼パーティー会場です。既存の和風建築をリノベーションし、絶景を臨む地に新しいレストランが出来上がりました。
L字型の改装前の外観は、痛みや古さを感じさせる不安定さがありました。庭の植物も奔放に生え、長年手をつけられていない雰囲気があります。
外観全体には手を入れられ、壁を取り払い外部と内部が一体になるような空間が生み出されています。その姿は大きな屋根付きのテラスのようでもあり、ガラスの木製建具を移動させると室内空間として店舗にも変化するようになりました。ほぼ壁を感じさせないオープンな雰囲気はモダンでスマートな印象を与えます。床と庭はひと続きになるようにコンクリートで仕上げられ、天気の良い日は外部にテーブルを移動させておもいおもいの場所で食事と宴を楽しむのもまた一興です。
以前は昔ながらの畳の続き間でした。前面に窓がありますが、全てすりガラスで仕上げられているため少々閉塞的な印象も与えます。奥には昔のキッチンが据えられています。
屋根と柱以外は取り払われ、見事なまでのオープン空間に。室内ながら室内とは感じさせない潔いほどの姿に驚く方も多いのではないでしょうか。全開放した空間、屋根裏の構造を魅せるポイントとして構えた設えの中にテーブルが配置されます。余分な境界を感じさせず、美しい景色の中にただ身を置き、その場の時を楽しむことにゲストは集中できるでしょう。雄大な開放感と美味しい料理、絶景を臨みながら過ごす時間は忘れられないかけがえのないものになるに違いありません。季節や時間、陽の移ろいがみせる全ての姿がこの店の一部です。
さらに別の角度では、広縁の先に海を臨む景色であることもわかります。瀬戸内海に千畳閣、五重塔という絶景が眺められる抜群のロケーションは、生かされないのがもったいないほどの素晴らしい景色です。
全てを開放したとき、この景色に息を飲まない人はいないかもしれません。リノベーションは、何を残して何を新しく変化させるかの判断やセンス、アイデアによって同じ物件でも建築家によって違う魅力の引き出し方がなされるでしょう。古民家の新しい使い方や持ち味を引き出し、多くの方が訪れるレストランは日本の民家の魅力を再発見し現代の建築技術では実現しにくい文化を継承する見事なプロジェクトとなりました。
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