築年数が長い日本家屋は、移築という方法で代々受け継がれてきたものがあります。現在のプレカット工法の家とは違う趣があり、長い期間の分の思い入れも詰まった家。家主がこだわりを持ちながら現在まで形が残されてきた家は、決して状態がよくなくとも価値ある存在として住まい手の心に宿っています。今回ご紹介するのは、築100年を超える「曾お爺ちゃんが移築してきた家」のリノベーションです。長年の痛みも気になる状態でしたが、住まい手の熱意をアグラ設計室一級建築士事務所 AGRA DESIGN ROOMが丁寧に修繕をしながら生まれ変わらせたプロジェクトです。
断熱材もなく、隙間風が多い状態の家でした。トタン1枚の十分とは言えない外壁、張り替えたばかりにも関わらず大きく波を打っている屋根と、長年の少々の積み重ねが大きな歪みにつながっています。何度も修繕を重ねられてきましたが、万全ではない状態のため快適とは言えません。
現在の基準と比べると、耐震性や耐久性、住み心地を左右する気密や断熱性はまったく異なる状態でした。建築家はその状態を高めるべく、素材や工法を見直しました。古民家、と言うには少々趣も異なるため、ガルバリウム鋼板を採用したモダンな外観へと変身。窓の入れ替えも行い、耐久性を高めるとともに気密や断熱性も格段に向上しました。リノベーションだからこそ、痛みや見た目だけではなく、根本の住まいの機能も見直すポイントになります。
長年の痛みが重なり、さらに建物の裏にある渓流の影響から湿度の高さが問題になっていました。床は部分的に腐り、危ない状態です。
耐震的に心配のあった家には格子状の壁をつくることで補強をしました。内装も床を含め真新しいものになり、以前の今にも崩れそうだった面影は感じられないほどの空間に。補強をしたことで4枚建てのふすまは3枚引き込み戸となり、扉を開け放つと以前よりもぐんと開放的な空間が広がります。続き間ながら、襖によって区画割りがされていた頃と比べ、今回のリノベーションで全ての間を一体に使うことが可能となりました。暮らしやすさも格段にアップし、和モダンの心地よい空間が広がります。
万全でない断熱性や隙間風、使われない部屋の存在によって、開口は大きくとも「暗くて寒い」イメージが定着していました。
しっかりとした断熱性に加え、もともとの大きな開口部からはやわらかく暖かな陽の光が室内へもたらされます。耐力用の構造壁として設けられた格子壁はどっしりとした風格の日本らしさを演出し、まるで以前からそこにあったかのような趣深さを感じる仕上がりとなりました。木をたっぷりと感じられる和モダンの和室は寝転がりたくなるような心地良い空間です。